京都地方裁判所 平成9年(ワ)1826号 判決 1998年8月27日
京都市東山区泉涌寺五葉ノ辻町一三番地
原告
平田政弘
右訴訟代理人弁護士
清田冨士夫
同
山田俊介
同
近藤輝生
右輔佐人弁理士
武石靖彦
京都市北区小山下花ノ木町三六番地
被告
株式会社アイテック
右代表者代表取締役
木村剛三
同所
被告
木村剛三
被告ら訴訟代理人弁護士
三谷健
右輔佐人弁理士
深見久郎
同
伊藤英彦
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 被告株式会社アイテックは、別紙イ号物件説明書記載の節水弁を製造し、販売してはならない。
二 被告株式会社アイテックは前項の節水弁を廃棄せよ。
三 被告らは原告に対し、連帯して金二八〇〇万円及び平成九年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、「流量調節開閉栓用節水弁」に係る実用新案権を有する原告が、被告株式会社アイテック(以下「被告会社」という)の製造・販売する別紙イ号物件説明書記載の節水弁(以下「イ号物件」という)が、右実用新案権の技術的範囲に属するとして、被告会社に対し、同節水弁の製造・販売の禁止及び廃棄を求めるとともに、被告会社及び同社の代表取締役である被告木村剛三(以下「被告木村」という)に対し(被告木村に対しては商法二六六条ノ三に基づき)、損害賠償として連帯して二八〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
二 争いがない事実等
1 原告の実用新案権
原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有する(甲一、二)。
登録番号 第二五二七一〇〇号
考案の名称 流量調節開閉栓用節水弁
出願日 平成元年八月三一日
出願番号 実願平一-一〇二六八五
公開日 平成三年四月一九日
公開番号 実開平三-四一二八三
登録日 平成八年一一月一八日
2 実用新案登録請求の範囲
本件考案の実用新案登録請求の範囲(以下「本件請求の範囲」という)は次のとおりである。
「流量調節開閉栓(21)の出口側において出口側流路(22)と補助流路(23)との接続部に取り付けて用いる節水弁(1)であって、前記流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、前記出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、前記節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁において、軸方向一端側に設けた流体入口開口(7)と、軸方向他端側であって、前記流体入口開口(7)に対向する端壁(9)に設けた第1の流体出口開口(8A)と、軸方向他端側における周壁(10)に設けた複数の第2の流体出口開口(8B)と、前記流体入口開口(7)に連通する内r1と(「の」の誤記と認める)第1の内径部分(6A)と、前記第1および第2の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の第2の内径部分(6B)、前記第1の内径部分(6A)と第2の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)とを備えたケーシング(2)と、
前記ケーシング(2)における第1の内径部分(6A)において軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体(3)と、
前記ケーシング(2)における流体入口開口(7)側に取り付けられていて、前記球状弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)と、
前記球状弁体(3)とケーシング(2)における端壁(9)の内面との間に張装され、前記球状弁体(3)を前記ストッパ部材(5)側に付勢するコイルスプリング部材(11)とからなることを特徴とする流量調節開閉栓用節水弁。」
(なお、実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という)の記載は別紙一の実用新案登録公報のとおりである。)
3 本件考案の構成要件
本件考案の構成要件を分説すると次のとおりである(以下、(一)の構成要件を「本件構成要件(一)」等という)。
(一) 流量調節開閉栓(21)の出口側において出口側流路(22)と補助流路(23)との接続部に取り付けて用いる節水弁(1)であって、
(二) 流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁において、
(三) 軸方向一端側に設けた流体入口開口(7)と、軸方向他端側であって、流体入口開口(7)に対向する端壁(9)に設けた第一の流体出口開口(8A)と、軸方向他端側における周壁(10)に設けた複数の第二の流体出口開(8B)と、流体入口開口(7)に連通する内r1の第一の内径部分(6A)と、第一及び第二の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の第二の内径部分(6B)と、第一の内径部分(6A)と第二の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)とを備えたケーシング(2)と、
(四) ケーシング(2)における第一の内径部分(6A)において軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体(3)と、
(五) ケーシング(2)における流体入口開口(7)側に取り付けられていて、球状弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)と、
(六) 球状弁体(3)とケーシング(2)における端壁(9)の内面との間に張装され、球状弁体(3)をストッパ部材(5)側に付勢するコイルスプリング部材(11)とからなることを特徴とする流量調節開閉栓用節水弁。
4 作用効果
本件明細書には、「作用」及び「考案の効果」として、それぞれ次の記載がある(別紙一=甲二)。
(一) 作用
「上記するように構成されるこの考案になる流量調節開閉栓用節水弁は、次のように作用する。まず、流量調節開閉栓が閉じられていて、出口側流路中の流量が0である場合に、ケーシング内の球状弁体は、スプリング部材により上限位置に付勢されていて、流体入口開口を閉じた状態にある。流量調節開閉栓を徐々に開いていくと、流量W1の段階において、球状弁体は、スプリング部材の付勢力に抗して軸方向に移動し、放出w1の水を放出する。さらに、流量調節開閉栓を開き、流量が最大流W2に近づくと、その流圧によって前記球状弁体は、円錐弁座面に係合し、放水を遮断する。」
(二) 考案の効果
「以上の構成になるこの考案の流量調節開閉栓用節水弁は、流量調節開閉栓の出口側流路に対して、極めて簡単に取り付け及び取り外すことができるコンパクトな節水弁であって、流量調節開閉栓の開き操作によって、不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて、ほぼ反比例的に放水流量を制限し、開放最大値近傍において放出量を0にすることもでき、安定性並びに確実性の面において極めて実効性の高いものであるといえる。」
5 被告らの概要及びイ号物件の製造・販売
被告会社は、平成元年九月二一日、節水弁の販売を目的として設立された株式会社であり、被告木村は設立以来同社の代表取締役である。
被告会社は、イ号物件を製造・販売している。
6 イ号物件の構成要件
イ号物件の構成要件を分説すると次のとおりである(以下、(一)の構成要件を「イ号構成要件(一)」等という)。
(一) 流量調節開閉栓(21)の出口側、たとえば、出口側流路(22)と補助流路(23)との接続部に取り付けて用いる節水弁(1)であって、
(二) 流量調節開閉栓(21)の開方向操作によって、流れる水の量を減少させた状態で放水する流量調節開閉栓用節水弁において、
(三) 軸方向一端側に設けた流体入口開口(7)と、軸方向他端側であって、流体入口開口(7)に対向する端壁(9)に設けた第一の流体出口開口(8A)と、ケーシングの周壁(10)に設けた複数の第二の流体出口開口(8B)と、流体入口開口(7)に連通する内径r1の第一の内径部分(6A)と、第一の流体出口開口(8A)に連通する内径r2(r2<r1)の第二の内径部分(6B)と、第二の流体出口開口(8B)に連通し、第一の内径部分(6A)と第二の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)とを備えたケーシング(2)と、
(四) ケーシング(2)における第一の内径部分(6A)及び円錐状弁座面部分(6C)において軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体(3)と、
(五) ケーシング(2)における流体入口開口(7)側に取り付けられていて、球状弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)と、
(六) 球状弁体(3)とケーシング(2)における端壁(9)の内面との間に張装され、球状弁体(3)をストッパ部材(5)側に付勢するコイルスプリング部材(11)とを備えた流量調節開閉栓用節水弁。
三 原告の主張
1 本件考案とイ号物件との対比
(一) 本件構成要件(一)ないし(六)は、イ号構成要件(一)ないし(六)とそれぞれ同一である。
(二) 本件考案の作用効果は、本件考案の節水弁は「流量調節開閉栓の出口側流路に対して、極めて簡単に取り付け及び取り外すことができるコンパクトな節水弁であって、流量調節開閉栓の開き操作によって、不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて、ほぼ反比例的に放水流量を制限し、安定性並びに確実性の面において極めて実効性の高いものである」ことであり、イ号物件の作用効果も同一である。
よって、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属する。
2 差止請求
被告会社は、平成元年一〇月ころから、イ号物件を原告に製造を委託して業として販売し、平成三年一二月ころからは、キングパーツ株式会社に製造を委託し、納品を受けたものを「セブスター」の商品名で株式会社アミックほかに譲渡しており、原告の警告にもかかわらず、製造・販売を継続している。
よって、原告は、本件実用新案権に基づき、被告会社に対し、イ号物件の製造・販売の禁止並びにその廃棄を求める。
3 損害賠償請求
(一) 被告会社は、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するものであることを知悉しながら、原告の製造中止の申入れを受けても、これを無視して製造・販売を続け、本件実用新案権を侵害し続けている。
(二) また被告木村は、被告会社の代表取締役として、本件実用新案権の侵害を熟知しながら被告会社をしてイ号物件の製造・販売を行わしめているものであり、商法二六六条ノ三により、被告会社と連帯して、この侵害行為により原告の被った損害を賠償する義務がある。
(三) 原告の損害
被告会社は、本件実用新案権の登録後である平成八年一二月以降、イ号物件を一個八〇〇〇円から一万円で販売しており、毎月一〇〇〇万円以上の売上がある。被告会社の純利益額は少なくとも四〇パーセントを下回るものではないところ、実用新案法二九条一項により、被告会社の純利益が原告の損害額と推定されるので、次のとおり原告の損害額は二八〇〇万円となる。
売上合計(平成八年一二月一日から平成九年六月末日まで)
1000万円×7か月=7000万円
純利益額
7000万円×40%=2800円元
(四) よって、原告は、被告らに対し、連帯して二八〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年八月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 被告らの主張等
1 原告の主張に対する認否
(一) 前記三1(一)の事実うち、本件構成要件(二)、(三)がイ号構成要件(二)、(三)と同一であることは否認する。
同(二)の事実は否認する。
(二) 同2の事実は否認ないし争う。
(三) 同3の事実は否認ないし争う。
2 イ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないことについて
(一) 本件考案の目的及び効果
(1) 本件考案の目的
本件考案の目的は、「流量調節開閉栓の開方向操作による流量の増加に応じて、ほぼ反比例的に放出流量を制限し、開放最大値近傍において放出流量を0にすることもできるように構成した、安定性並びに確実性の高い流量調整開閉栓用節水弁を提供すること」(別紙一-4欄16~20行)にある。
(2) 本件考案の効果
本件考案の効果は、「流量調節開閉栓の開き操作によって、不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて、ほぼ反比例的に放水流量を制限し、安定性並びに確実性の面において極めて実効性の高い」ことである。
(二) 本件考案とイ号物件との対比
イ号物件は、以下の理由により、少なくとも本件構成要件(二)、(三)を充足しない。
(1) 本件構成要件(二)は、「流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした」というものである。この要件に関して、本件明細書には、「流量調節開閉栓の開方向操作による流量の増加に応じて、ほぼ反比例的に放出流量を制限し、開放最大値近傍において放出流量を0にすることもできるように構成した」と記載されている(別紙一-4欄16~19行)。
また、本件構成要件(三)によれば、第二の流体出口開口(8B)は、軸方向他端側における周壁(10)に設けられ、内径r2の第二の内径部分(6B)は、第一及び第二の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する。
本件明細書の記載から判断すると、本件考案では、球状弁体(3)と円錐状弁座面部分(6C)との間の隙間によって通過流量が調整され、節水弁(1)に入ってくる流量が多いほどコイルスプリング(11)の圧縮量が大きくなり、球状弁体(3)と円錐状弁座面部分(6C)との間の隙間は小さくなる。これにより、「出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口流量を減少させる」という構成になる。また、本件考案では、流量が最大流量に近づくと、その流体圧によって球状弁体(3)が円錐状弁座面部分(6C)に当接し、第一及び第二の流体出口開口側(8A)、(8B)を封止してしまい、放水を遮断する(別紙一-6欄14~17行)。
このような作用を実現するには、第二の流体出口開口(8B)は、球状弁体(3)が当接する円錐状弁座面部分(6C)よりも下流側に位置していなければならない。言い換えれば、第二の流体出口開口(8B)は円錐状弁座面部分(6C)に形成されていてはならず、必ず「軸方向他端側における周壁(10)」であって「第2の内径部分(6B)」に設けられていなければならない。
(2) 一方、イ号物件では、第二の流体出口開口(8B)は、第二の内径部分(6B)に設けられているのではなく、円錐状弁座面部分(6C)に設けられている。しかも、第二の流体出口開口(8B)の上縁が位置する部分の内径寸法Zは球状弁体の外径Rよりも大きい。そのため、水圧によって球状弁体(3)が円錐状弁座面部分(6C)に当接している状態では、第二の流体出口開口(8B)の上方領域が流路を開いており、水は常にこの開いた部分(隙間部分)を通過して流れる。この隙間の大きさは一定であるので、流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁(1)の出口側流量は比例的に増加し、開放最大値近傍において放出水量は上限値で一定になる。
したがって、イ号物件は、本件構成要件(二)及び(三)を充足していない。
円錐状弁座面部分(6C)に第二の流体出口開口(8B)を設けたイ号物件の構造では、前記の本件考案の目的は達成されず、また本件考案の効果も奏しない。本件構成要件(二)及び(三)は、本件考案の目的を達成し、かつ本件考案の効果を奏するために不可欠な構成要件であるところ、このような構成要件(二)及び(三)を充足しないイ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
(3) 原告は、本件明細書の「考案の効果」の記載中、「開放最大値近傍において放出量を0にすることもでき」とは、開放最大値近傍において放出量を0にすることもできるという意味であって、本件請求の範囲で規定している範囲において、開放最大値近傍において放出量を0にすることなく、制御された放出流量で安定性及び確実性の高い節水弁とすることもできると主張する。
しかしながら、開放最大値近傍において放出量を0にすることなく、制御された放出流量で安定性及び確実性の高い節水弁とすることもできることを裏付ける記載を本件明細書の記載中に見出すことはできない。
(三) 本件考案の技術的範囲に関する原告の認識
乙六は、本件考案とは別の原告出願に係る「流量調節節水弁」(以下「別件考案」という)に関する実用新案公報(実公平七-五四七〇〇号)であるところ、それには本件考案に対応する公開公報「実開平三-四一二八三号」が引用されている(乙六-3欄48行~4欄19行)。この引用の中で、原告は、実開平三-四一二八三号公報に開示のものは、入口側の流量がW2に達した段階で、流体の流出を遮断するように構成されているものであり、その点において、一面における不便さを有している旨を説明している。別件考案は、かかる不便を解消するために、「水道栓の最大開方向操作時においても流量感のある適量の水を放出し得るように構成した」ことにある(同-4欄25~27行)。具体的には、別件考案では、「弁本体の周壁であって、円錐状弁座面に交差して放射方向にのびる複数の流体放射流出開口が設けられている。この流体放射流出開口は、上記円錐弁座面に対する球状弁体の係合状態時に、球状弁体により閉じられることのない位置に設定されており、上記円錐弁座面に対する球状弁体の係合状態時に、前記流体放射流出開口を介して適量w2の流体を流出するようになっている。」(同-5欄30行~36行)と説明されている。
このように、原告は、水道栓の最大開方向操作時に放出流量を0にしてしまう本件考案の不便さを認識していることからも、本件考案が、開放最大値近傍において放出量を0にすることなく、制御された放出流量で安定性及び確実性の高い節水弁とすることもできるという原告の主張が失当であることは明らかである。
(四) 原告及び被告らの各実験について
(1) 原告の実験
原告は、後記五1(六)のとおり、AないしFの六種類の節水弁の流量データを示している(別紙三資料B)。これら六種類の節水弁のうち、Fタイプのみが、円錐状弁座面部分(6C)の下流に位置して球状弁体の外径よりも小さな内径を持つ周壁に、第二の流体出口開口(8B)を設けており、一方、AないしEタイプの節水弁は、円錐状弁座面部分(6C)に第二の流体出口開口(8B)を設けている。
したがって、六種類の節水弁のうち、Fタイプのみが本件考案の実施品に相当し、それ以外のタイプは本件考案とは全く異なるものであるところ、原告の実験結果は、このことを明確に表している。すなわち、Fタイプの節水弁では、開閉栓の開放最大値近傍において節水弁の放出流量が0になるのに対し、それ以外のAないしEタイプの節水弁では、開閉栓の開放最大値近傍において節水弁の放出流量が上限値でほぼ一定になっている(別紙三資料B)。
(2) 被告らの実験
<1> 実験を行ったイ号物件
別紙イ号物件説明書のイ号図面に記載の品番A、C、E(以下「イ号物件A」等という)について実験を行った。これらの節水弁に使用されているバネのバネ荷重は二〇グラムである。
<2> 実験を行った本件考案の実施品
本件考案の実施品として、別紙四資料Aに示す構造の節水弁を製作し、バネ荷重の異なるバネを用いて四種類の本件考案実施品a、b、c、d(以下「本件考案実施品a」等という)について実験を行った。
<3> 実験1
水圧3.4kgf/cm2の水道の開閉栓を徐々に開いていき、全開になるまでの節水弁の放出流量の変化を測定し、その結果を別紙四資料Bに示した。
イ号物件A、C、Eにおいては、開閉栓の開方向操作により節水弁の放出流量は比例的に増加し、開放最大値近傍において節水弁の放出流量が上限値で一定になっている。
本件考案実施品a、b、cにおいては、開閉栓を開くと即座に球状弁体が流路を遮断し、そのため放出流量は全ての開栓角度で0であった。本件考案実施品dにおいては、開栓角度が一二〇度のとき節水弁の放出水量が最大量を示し、その後角度を大きくしていくと反比例的に放出流量が減少し、二四〇度以上の開栓角度では節水弁の放出流量が0.4トリルツ/minとなった。放出流量が0にならなかったのは、寸法精度上の誤差などの影響で微小隙間から水が漏れ出たためと考えられる。
<4> 実験2
水圧2.4kgf/cm2の水道の開閉栓を徐々に開き、全開になるまでの節水弁の放出流量を測定し、結果を別紙四資料Cに示した。
イ号物件Aにおいては、開閉栓を全開にするまで放出流量が比例的に増加している。水圧が比較的低いため、イ号物件Aでは節水弁の放出流量は一定の上限値に達していない。
イ号物件C、Eにおいては、開閉栓の開放角度の増大とともに節水弁の放出流量が比例的に増加し、開放最大値近傍において放出流量が上限値で一定になっている。
本件考案実施品a、bにおいては、開閉栓を僅かに開いただけで球状弁体が流路を遮断してしまうため、節水弁の放出流量は常に0であった。
本件考案実施品c、dでは、開閉栓の開放角度が一八〇度近傍で節水弁の放出水量が最大に達し、それ以上開閉栓の開放角度を大きくしていくと反比例的に節水弁の放出流量が減少している。開閉栓の最大開放時に節水弁の放出流量が0にならなかったのは、水圧が比較的低かったからである。
<5> 実験結果からみた考察
本件考案実施品a、b、c、dは、円錐状弁座面部分の下流に位置する周壁に第二の流体出口開口(8B)を有している。これらの実施品では、バネ荷重の大きなバネを用いなければ節水弁として機能しないことが認められた。大きなバネ荷重を持つバネを使用した本件考案実施品c、dにおいては、開閉栓の開方向操作による流量の増加に応じてほぼ反比例的に節水弁の放出流量が減少し、開放最大値近傍において放出流量が0になる。
イ号物件A、C、Eは、円錐状弁座面部分に第二の流体出口開口(8B)を有している。これらのイ号物件では、開閉栓の開方向操作により節水弁の放出流量が比例的に増加し、開放最大値近傍において放出流量は上限値で一定になる。
被告らの実験結果からも明らかなように、イ号物件は、構成及び作用効果上、本件考案と相違している。
3 職務発明による通常実施権
仮に、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告会社は職務発明による通常実施権を有する。
(一) イ号物件考案の経過及び被告会社設立の経過について
(1) 被告木村は、「ジーケーテクノ」の名称で節水器具(商品名-SKウォーターバルブ)の販売及び取付けの業務をしていたが、昭和六三年八月ころより新しい節水弁の考案に着手し、柳沢洋一(被告会社の設立発起人-以下「柳沢」という)と共に、節水弁の作成に必要なベアリングやネジ等の研究をしていた。
(2) 被告木村は、菊池正行(被告会社の設立発起人-以下「菊池」という)から紹介された原告に対し、平成元年二月ころから、いくつかの考案を示し、試作を依頼した。
(3) 同年五月ころ、被告木村は、柳沢、菊池らと共に共同出資して試作中の新節水弁が完成したときに備えて、これを販売する株式会社の設立を企図しており、原告からも設立発起人になりたい旨の申し出があり了承した。
(4) その後、被告木村は、原告の試作品について、スプリングの巻数や球状弁体の大きさなどをテストしては寸法変更を指示する等し、同年六月二六日、一応の完成を見たのがイ号物件である。同じころ、設立予定の会社の商号を「株式会社アイテック」と決め、本店所在地を被告木村の住所地に定めることとした。
(5) 同年七月になって、原告よりイ号物件の実用新案登録出願の提案がなされ、被告木村もこれを了承した。ただ、本来なら被告会社名義で出願すべきところ、同社は設立中であったため、被告木村と原告の共同名義で出願することとした。
(6) 同年八月四日、会社設立に必要な書面等はほぼ準備できたが、決算期日や出資金の手当などがあり、同年九月二一日が大安吉日であることから、同日を設立の日と決めるとともに、イ号物件の商品名の考案を株式会社キャパクリエーションに依頼し、「セブスター」とすることにした。
(7) 同年八月一七日、被告会社に必要な代表者印、銀行印、社印を作成すると共に、代表取締役に被告木村、取締役に原告、柳沢が就任することを決めた。
(8) しかし、同月三一日、原告は被告木村と共同で出願するとの合意に反し、単独名義で実用新案登録の出願をした。同年九月二一日、被告会社が設立された。
(二) 被告木村と原告が共同で考案したイ号物件は、設立中の会社の発起人たる被告木村と原告が行った考案で、成立後の会社の業務範囲に属し、かつ、その考案をする行為が成立後における会社の被告木村、原告の職務に属するものであるから職務発明に該当する。イ号物件の完成時は、被告会社は、いわゆる設立中の会社であったが、発起人が設立中の会社のために取得し負担した権利義務は設立とともに会社に帰属することとなるから、被告会社は本件考案につき職務発明による通常実施権を有するものである。
4 権利濫用
イ号物件の考案の経過及び原告が単独名義で実用新案登録の出願をなしたことは、前記3(一)のとおりである。このような場合、原告の実用新案登録の出願自体が信義則に反し、そのようにして取得した実用新案権に基づいて、原告が被告らに対しイ号物件の製造・販売の禁止、廃棄、損害賠償の請求をすることは、公正な競業秩序の保護・規制を目的とする実用新案法の精神に鑑み正当な実用新案権の行使とは言えず、権利の濫用に該当する。
五 原告の反論等
1 イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することについて
(一) 本件考案とイ号物件との対比
(1) 本件構成要件(二)について
被告らは、本件構成要件(二)は、流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした」というものであるのに対し、イ号構成要件(二)は、「流量調節開閉栓(21)の開方向操作によって、流れる水の量を減少させた状態で放水する」ものであるから、本件構成要件(二)とイ号構成要件(二)は同一ではないと主張する。
しかし、本件構成要件(二)の「減少させるようにした」とは、節水弁の出口側の流路が絞られるその絞り効果を意味するものであって、実際の流量が減少するという意味ではなく、流量調節開閉栓(21)を開いた割りには本件考案に係る流量調節開閉栓用節水弁を使用していない場合に比べて出口側の流量が高くはならないという意味である。流量調節開閉栓(21)を開いた分だけ出口側の流量が高くなることは自然法則に照らして当然のことである。
被告らは、イ号物件は、流路調節開閉栓(21)の開方向操作により出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁(1)の出口側流量は比例的に増加すると主張するが、別紙イ号物件説明書のイ号図面からも判るように、節水弁の総合的な出口側流量は開閉栓の開き度に対して制限されたものとなることは明らかである。被告ら提出の乙二のデータは、入口側流量が増加しても出口側流量は相対的には減少された状態になっていることを示している。したがって、イ号物件は、構成要件(二)を充足するものである。
(2) 本件構成要件(三)について
被告らは、本件構成要件(三)では、第二の流体出口開口(8B)は円錐状弁座面部分(6C)よりも下流に位置し、球状弁体(3)の外径Rよりも小さい内径r2の第二の内径部分(6B)を持つ周壁(10)に設けることが明確に規定されているとし、イ号物件は本件構成要件(三)を充足しないと主張する。
しかし、本件構成要件(三)は前記第二、二3(三)のとおりであって、複数の第二流体出口開口(8B)と円錐状弁座面部分(6C)との位置的、寸法的関係については何ら限定をしていない。また、球状弁体(3)は、外径Rをr1>R>r2の関係に限定するにとどまる。
また、第二の流体出口開口(8B)は、軸方向他端側の周壁(10)に設けられておればよく、この周壁(10)という文言は文字通り周壁であって第二の内径部分(6B)の周壁のみを意味するものではないことは独立した部品名称が使用されていることからも明確である。したがって円錐状弁座部分(6C)のケーシングの側壁部も周壁を構成する部分であることは当然である(別紙一の第2図Cでは出口開口(8B)は、一部円錐状弁座部分にまたがって開口されている)。もちろん第一の流体出口開口(8A)も第二の流体出口開口(8B)も同時に流体を放出するときが存在するわけであるから、両開口はともに第二の内径部分と流路的に連通していなければならないのは当然であり、別紙イ号物件説明書のイ号図面もこの構成を充足している。
要するに、被告らの実施にかかるイ号物件の流量調節開閉栓用節水弁は、数値の限定によって構成した設計態様を示すにすぎないものである。
また、被告らは、円錐状弁座部分(6C)に第二の流体出口開口(8B)を設けたイ号物件の構造では、本件考案の目的は達成されず、また本件考案の効果も奏されないと主張するが、放出流量を最大入口流量に対してどの程度の割合(0も含む)に制限するかは、第二の流体出口開口(8B)の大きさ・位置及び球状弁体の大きさに応じて設計的に任意に選択できる事項であり、これらの選択範囲は本件構成要件の全てに含まれる設計態様に過ぎない事項であり、本件実用新案の本質的な構成を限定解釈する根拠とはなし得ないものである。
(二) 本件登録実用新案の技術的範囲の認識について
被告らは、本件考案の技術的範囲を、本件明細書の記載及び図面中の一実施例、一作用効果に基づいて、限定的に解釈しているが、考案の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであって、被告らの解釈は基本的に誤っている。
実用新案登録請求の範囲を解釈するについて、必要に応じて、考案の詳細な説明、図面を参酌すべきことは争わないが、考案の詳細な説明のうち、実施例の項は、文字通り一例であって、そこに記載の例に限られるものでないことに留意しなければならない。すなわち、実用新案登録請求の範囲に記載された考案よりも下位概念の考案は、上位概念の考案を規定する実用新案登録請求の範囲の技術的範囲に属すると解釈される。換言すれば、考案の技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲に属するか否かによって決まることであって、構成の異同により決まることではない。イ号物件は、本件考案の下位概念の考案であって、本件考案の技術的範囲の外にあるものではない。要するに、明細書に記載された実施例は、あくまで考案の構成の具体化の例示にすぎず、ある具体的構成のものが実施例に記載されていないからといって、直ちにその構成のものが考案の技術的範囲に属しないとすることはできない。
なお、被告らは、本件訴えの提起前には、原告に対する回答書(甲四)から明らかなように、被告らの実施にかかる節水弁は本件考案の技術的範囲に属するものであることを当然の前提としていたものである。
(三) 本件考案の作用効果について
本件考案は、従来の節水弁(別紙一-第4図A及びB参照)における問題点を解消するべく、必須の構成要件(一)ないし(六)を備えることにより、流量調節開閉栓の開き操作によって不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて流量調節開閉栓を開く割りには不必要な流水を制限し、ほぼ反比例的に放水流量を制限することもでき、開放最大値近傍において放出量を0にすることもできるという一つの作用効果を開示するものであり、それによって安定性及び確実性の面において極めて実効性の高い流量調節開閉栓用節水弁を提供するものである。
一方、イ号物件は、別紙イ号物件説明書のイ号図面記載のX、Y、Zの各寸法を選択的に設計することによって構成されているものであり、この数値の限定に基づく構成自体は、本件考案の技術的範囲に属することは極めて明らかなことである。すなわち、本件考案は、右のX、Y、Zの各寸法を選択的に設計することによって、開放最大値近傍において放出量が0にならない構造の節水弁を設計し得るものである。
要するに、本件明細書の「考案の効果」の記載中、「開放最大値近傍において放出量を0にすることもでき」は、開放最大値近傍において放出量を0にすることもできるものであって、何ら、放出量を0にするだけのものではなく、実用新案登録請求の範囲で規定している範囲において開放最大値近傍において放出量を0にすることなく、制御された放出流量で安定性及び確実性の高い節水弁とすることもできるのであって、イ号物件における作用効果、「開閉栓を最大に開いても、通過する流量を少なくして節水する節水弁」と符合するものである。
(四) 別件考案について
(1) 被告らは、別件考案(乙六)を根拠として、本件考案の目的、作用効果を「開放最大値近傍において放出量を0することである」と限定的に解釈する。しかし、本件明細書の考案の詳細な説明の最初の項には、「流量流圧に応答して放出流量を制御して節水する」ものであることが明記(別紙一-3欄5~6行)され、「考案が解決しようとする課題」の項には、従来の流体圧による浮力によってリング状弁体を浮上させる形式の節水弁では弁体の制御が不安定であるという問題点を解決するために流量の増加に応じてほぼ反比例的に(すなわち安定的に)放出流量を制御する、と第一の主題が明確に記載されており(同-4欄13~20行)、放出流量を0にすることは「もできる」という表現から読めるように余事的副次的課題として位置付けられているに過ぎない。すなわち「0にすることもできる」という表現は、前段に記載された従来例の目的である通常の節水作用(0にはならない)だけの場合を当然のこととして含んでいることは、節水弁の本質から考えても明らかである。
被告らは、放出量を0にすることなく、制御された放出流量で安定性及び確実性の高い節水弁とすることを裏付ける記載が本件明細書中に見出せないと主張するところ、このことは節水弁としての当然の本質的な作用であるので特に強調して記載されてはいないかも知れないが、本件明細書の「産業上の利用分野」(同-3欄1~6行)、「考案が解決しようとする課題」、「課題を解決するための手段」(同-4欄14~28行)、「考案の効果」(同-6欄20~27行)の各記載に十分支持されている。したがって、被告らの主張は、その根拠を欠くものである。
(2) また、乙六の4欄17~19行の記載は、その前段の記載(4欄1~15行)からも判るように、本件明細書の第二図に示された具体的な実施例と比較した例示であり、本件考案の技術思想の全体像と比較したものでない。また「一面における不便さを有している」との文言は、他面においてはそれなりの有用性を備えていることを読み取らねばならない。例えば、小学校、中学校などの手洗い場のように子供達が面白半分に急に大きく水道栓を開いて、必要以上の大量の水を出して長時間遊んだり、水飛沫で他人に迷惑を及ぼしたりする恐れがある場合には、流水を遮断してしまって、無駄な遊びを戒める効果が期待できる。
(3) 被告らは、このように本件考案の一実施例が放出流量が0になる実施例であること、この一実施例との比較が後願の改良考案の公報に記載されていることを根拠に先願である本件考案の技術思想全体を限定解釈しているが、この論法は妥当性がない。一般に、基本発明に基づいて製品の技術開発を進める過程で、その基本発明に含まれるそれぞれ効能を異にする幾つかの実施態様製品のうちの一つの実施態様製品に別の機能及び効能を付加し、あるいは代替効能を与える改良発明が生まれることはよくあることであり、その改良発明の出願明細書にはその技術背景の理解のために基本発明の一つの実施態様の問題点を例示して改良の意義を明らかにすることは普通のことである。しかし先願発明の一実施態様の問題点が後日の改良発明で指摘されたことによって、先願の基本発明が備えている本質的及び包括的機能が制限されることは許されることではないし、あり得ないことである。
(4) なお、別件考案の要旨は、その実用新案登録請求の範囲で明らかなように、本件考案とほぼ同様にケーシング内にスプリングを介して球状弁体を介在させた節水弁を基本構成とし、これに弁本体の外壁を「先細まり」とする新しい構成を付加したもので、この「先細まり」構成によって排出される流体の整流性の向上を図ったものである。すなわち「放出流量を0にしないこと」を直接の目的とするものではなく、また、これは本件考案に含まれていることであるので、改良実用新案として登録される筈はない。したがって、先願である本件考案は「放出量が0」になるものであって、その欠点を克服するべく後願考案を出願したという論理は成り立たない。
(五) 本件考案の実施例による説明
(1) 本件構成要件に示された各種の要件・数値条件を満足し、目的とする節水量に応じて異なる節水効果をもたらすAないしFの六タイプの実施態様(設計例=別紙二)に基づいて、本件考案の技術的範囲の全貌を明らかにする。
その設計は、水道栓の開方向操作に伴い流体入口開口(7)の流量が増して、球状弁体(3)が円錐状弁座面(6C)に当接する状態時において、ケーシング(2)の周壁(10)に設けた第二の流体出口開口(8B)をどの程度閉じるかに係るものである。本件考案に係る節水弁の場合、本件請求の範囲で規定されているr1>R>r2を満足する構成において、例えば、第一の内径r1と第二の内径r2の径関係を選択的に設計することにより、あるいは球状弁体(3)の直径Rを第一の内径r1と第二の内径r2に対して選択的に設計することにより、さらには、球状弁体(3)が円錐状弁座面(6C)に当接する当接点(P1)に対し、ケーシング(2)の周壁(10)に設けた第二の流体出口開口(8B)の上縁の位置を選択的に設計することにより変更することができる。
具体的には、別紙二の第1図に示す例のように、第一の内径r1、第二の内径r2及び球状弁体(3)の直径Rを一定にした場合、流体入口開口側(7)の流量が増し、球状弁体(3)が円錐状弁座面(6C)に当接する際、その当接点(P1)は、ストッパ部材(5)の頂面から軸方向の長さ寸法(LP1)の位置に特定されることになる。そして、軸方向長さ寸法Lの違いによって、Aタイプ(LA=8.5mm)、Bタイプ(LB=9.0mm)、Cタイプ(LC=9.5mm)、Dタイプ(LD=10.0mm)、Eタイプ(LE=10.5mm)、Fタイプ(LF=11.5mm)が設計される(別紙二第2図は、A・C・E・Fタイプを図示したものである)。
この場合、Fタイプの節水弁は、流体入口開口(7)の最大流量時に、ストッパ部材(5)の頂面から球状弁体(3)が円錐状弁座面部分的に当接する当接点(P1)までの軸方向長さ寸法(LP1)に対し、ストッパ部材(5)の頂面から第二の流体出口開口(8B)の上縁までの軸方向長さ寸法(LF)が長いので、この場合に限って流体入口開口(7)の最大流量時に節水弁の出口側の放出流量を0にすることができる。
(2) しかしながら、本件考案では、流体入口開口(7)の最大流量時に節水弁の出口側流量を0にすることだけに限定されるものではなく、ストッパ部材(5)の頂面から第二の流体出口開口(8B)の上縁までの軸方向長さ寸法LをLAないしLEとしたものも前記の構成要件に該当することは明らかである。したがって、本件考案では、ストッパ部材(5)の頂面から球状弁体(3)の円錐状弁座面当接点(P1)までの軸方向長さ寸法(LP1)に対して、軸方向長さ寸法LをAないしEタイプのように短く設計すれば、流体入口開口(7)の最大流量時、すなわち、球状弁体(3)の円錐状弁座面部分(6C)当接時に、第二の流体出口開口(8B)を介して節水弁の出口側流量を節水状態で確保することができる。
ちなみに、別紙二の第1図に示すAないしFタイプの六つのタイプの節水弁において、流体入口開口(7)の最大流量が20トリルツ/min.水圧が斜4Kgf/cm2の条件下において、当該節水弁の出口側の放出流量は、Aタイプ節水弁=15トリルツ/min、Bタイプ節水弁=13トリルツ/min、Cタイプ節水弁=10トリルツ/min、Dタイプ節水弁=8トリルツ/min、Eタイプ節水弁=5トリルツ/min、Fタイプ節水弁=0トリルツ/minを測定した。
(3) このようにAないしFまで全てのタイプの節水弁が本件構成要件(一)ないし(六)を充足する関係にあり、うちAないしEまでの五つのタイプの節水弁は「放出流量が0でないもの」で流量の増加に応じてほぼ反比例的に放出流量を制限し得るもので、本件考案の第一の課題を満足するものである。Fタイプの節水弁は「放出流量を0」にすることができた設計例で本件考案の副次的課題を満足する設計例である。
このFタイプの節水弁は、前記(四)(2)に述べたように、一面における不便さを有する面もあるが、他面において、使用用途によっては有用であり、立派に実用性をもつものである。しかし、このような効果は、本件考案の一実施態様例の効果であり、これだけが目的の全てではないことは前記AないしEタイプの例から見ても明らかである。
(六) 本件考案に基づいて原告が実施している製品の流量データ
(1) 別紙三の資料Aは、イ号物件を全開時水量の違いによってAないしEタイプに分類し、開栓度合いによる節水状況を示したものであり、同資料Bは、平成元年九月以降、原告が製造し販売している六種類の節水弁(前項のAないしFの六タイプに対応)の開栓角度に対する放出流量のデータである。
(2) イ号物件の流量データとの関係
利用者が水道栓を開栓操作する場合、一回ないし二回の回転操作をするのが通常であり、開栓角度において約一二〇度ないし一八〇度までのものである。
別紙三の資料A及びBのグラフに示されるように、各タイプの節水弁は、開栓角度約二四〇度ないし三〇〇度を越えて、放出流量に変化がないことが実測されているが、その範囲は実用上は余り利用されない範囲である。
これに対し、本来的に節水弁として機能する範囲は、開栓角度0度ないし二四〇度程度のものといえるところ、同資料Aに示すイ号物件の節水弁と、本件考案に係る節水弁とは、有効に機能する右当該開栓角度の範囲においてほとんど同じ節水効果を奏するものであることから両者に実質的差異は認められない。しかも、悉く符合する右AないしEタイプの節水弁に対し、唯一本件考案に係るFタイプの節水弁のみが放出流量を0にし得るという点だけをもって、イ号物件の節水弁が新たな考案のごとく主張し、本件考案の技術的範囲に属さないとする被告らの主張は不当である。
(七) 結論
イ号物件は、本件構成要件(一)ないし(六)の全てを充足しており、被告らが主張する作用効果の点を参酌するまでもなく、本件実用新案の技術的範囲に属するものである。特にイ号物件は、本件実用新案の重要なポイントであるスプリングで付勢された球状弁体を円錐状弁座部分に沿って移動させることにより節水弁の出口側流量を制限することによって安定な節水機能を達成するという基本思想がそつくりそのまま採用されており、また節水弁としての流量データも本件考案の実施品のものとほとんど同じである以上、作用効果や設計構造において本件考案の実施例との間に微差があるとしても原告の実用新案権を侵害する関係にあることは明らかである。
2 職務発明による通常実施権について
(一) 被告の主張に対する認否等
(1) 前記四3(一)(1)の事実のうち、被告木村が「ジーケーテクノ」の商号で「SK」という節水弁(本件考案にかかる節水弁とは原理的に全く異なるもの)の販売及び取り付け業務をしていたことは認めるが、その余は否認する。
「ジーケーテクノ」はSK節水弁の販売、取り付けをしていただけであり、節水弁の研究開発や製造などは全くしていなかった。当時は、被告木村も柳沢も節水弁に関する技術的な知識は全く有していなかった。
(2) 同(2)の事実のうち、原告が菊地から被告木村を紹介されたことは認めるが、新しい節水弁の考案を示されたこともなければ、その試作を依頼されたこともない。
(3) 同(3)の事実は否認する。
原告が、本件考案にかかる節水弁を完成させた経緯及び被告会社を設立した経緯は以下の通りである。
すなわち、前記SK節水弁は、従来技術の節水弁であり、ケーシング内においてリング状弁体を軸方向に移動させて放射方向出口開口を開閉制御する構造上、水垢などの付着によりリング状弁体が作動しなくなったり、入口側流量の経時的変化に伴ってリング状弁体が軸方向に振動し、音を生じたり、リング状弁体自体の制御を流体流量に頼っている点において、その制御が極めて不安定であり、かつ確実性に欠けるというものであった。SK節水弁はこのような構造上の欠陥を有しており、しかもこの節水弁が実用新案(現実には特許)登録を出願している商品であることを原告は納品後、菊地から知らされたことから、新しい節水弁の考案に着手したのである。
そして、原告は独自に試行錯誤し研究開発した末に、平成元年六月ころ、本件考案にかかる節水弁を完成し、同年七月初めころ、特許事務所に実用新案登録の出願を依頼し、同年七月半ばころに、被告木村に右節水弁を見せ、これを販売する会社を作ろうという話になった。このときに原告は初めて被告木村から柳沢を紹介されたのである。
このように、原告が本件考案にかかる節水弁を独自に完成させた後に初めて原告と被告木村の間で被告会社設立の話が出たのであり、しかもこの両者が中心となってその設立を進めたのであって、被告木村、柳沢らの話に原告を加えてもらったものではない。
(4) 同(4)の事実のうち、本件考案にかかる節水弁が平成元年六月ころに完成したこと及びこれを販売する会社の商号を「株式会社アイテック」と決め、本店所在地を被告木村の住所地に定めたことは認めるが、その余は否認する。
前記のとおり、本件考案にかかる節水弁は原告が独自に試行錯誤し研究開発した末に完成させたものであり、本件考案には被告木村らは全く加わっていない。また、同年六月ころは会社の商号や本店所在地どころか被告会社設立の話すらまだ出ていなかったのであり、会社の商号や本店所在地は同年八月以降に決定したものである。
(5) 同(5)の事実は否認する。
(6) 同(6)の事実のうち、平成元年九月二一日に会社を設立したこと、企画会社に商品名の考案を依頼したこと及び本件考案にかかる節水弁の商品名を「セブスター」と決めたことは認めるが、その余は否認する。
被告会社は、同年七月ころにその設立の話が出て、同年八月ころから設立の準備にかかったのであり、まだ八月四日の段階では設立に必要な書類は準備できていなかった。また、商品名が「セブスター」も企画会社の案を参考にして原告が考案し、被告木村らの同意を得て決まったものである。
(7) 同(7)の事実は日付を除き認める。
(8) 同(8)の事実のうち、原告が平成元年八月三一日に単独名義で本件考案の登録の出願をしたこと及び同年九月二一日に被告会社を設立したことは認めるが、その余は否認する。原告は、本件考案にかかる節水弁を独自に完成させたのであり、被告木村と共同で出願するとの合意はしていない。
(二) 被告らは平成元年六月に、原告が被告木村と共同で本件考案にかかる節水弁の開発をしたことが「職務発明」に該当すると主張するが、通常実施権の帰属主体になるべき被告会社は、平成元年九月二一日の設立であり、被告ら主張の職務発明時には、存在していない。
被告らは平成元年六月の職務発明時(原告の発明時期はもっと以前である)には、設立中の会社として存在していたと主張するが、かかる事実はない。右時期は、原告と被告木村らの間には会社設立の話すらなく、発起人自体も不存在であり「設立中の会社」と呼べるものは何もなかったのである。
よって、職務発明による通常実施権があるとの被告らの主張は失当である。
3 権利濫用の主張について
否認ないし争う。
六 争点
1 イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか。
(一) イ号構成要件(二)は、本件構成要件(二)を充足するか。
(二) イ号構成要件(三)は、本件構成要件(三)を充足するか。
2 本件考案は、職務発明に該当するか。
3 原告の差止請求及び損害賠償請求の権利濫用性
4 差止の必要性
5 原告の損害
第三 当裁判所の判断
まず、争点1(イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するか)について検討する。
一 本件請求の範囲の記載からの本件構成要件(二)、(三)の検討
1 本件構成要件(二)は、前記第二、二3(二)のとおり「流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁(において)」であり、イ号構成要件(二)は、前記第二、二6(二)のとおり「流量調節開閉栓(21)の開方向操作によって、流れる水の量を減少させた状態で放水する流量調節開閉栓用節水弁(において)」である。
そして、本件構成要件(二)の「出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした」との意味につき、原告は、節水弁の出口側の流路が絞られるその絞り効果を意味するものであって、節水弁の出口側の実際の流量が減少するという意味ではなく、流量調節開閉栓を開いた割には本件考案に係る節水弁を使用していない場合に比べて節水弁の出口側流量が高くならないという意味であるから、本件構成要件(二)は、「流れる水の量を減少させた状態で放水する」というイ号構成要件(二)と実質的に同一の構成であると主張する。これに対し、被告らは、本件構成要件(二)は、流量調節開閉栓の出口側流路(22)における流量(以下「開閉栓の出口側流量」という)が「高くなるに従って」、節水弁の出口側流量を「減少させる」構成であるところ、イ号構成要件(二)は、流れる水の量を減少させた状態で放水するものの、開閉栓の出口側流量が「高くなるに従って」、節水弁の出口側流量は「比例的に増加」するから、右両構成要件は同一ではないと主張する。
2 そこで、本件構成要件(二)の意義について検討するに、本件構成要件(二)に係る本件請求の範囲の記載は、開閉栓の出口側流量が「高くなるに従って」、節水弁の出口側流量を「減少させるようにした」というものであるから、水道の蛇口をひねって流量を増加させるに従って、節水弁から放水される流量を減少させるものと読むのが素直な文言解釈であると考えられる。もっとも、本件考案は、流量調節開閉栓用節水弁に係るものであり、開閉栓の出口側流量が0からある量に増加した場合にも、それに従って、節水弁の出口側流量を減少させるというのであれば、そもそも節水弁からの放水は得られないことになってしまうから、ある水量に達した後に、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにしたものであると考えるのが合理的である。
一方で、原告が主張するように、「節水弁の出口側流量を減少させるようにした」とは、開閉栓を開いた割には本件考案に係る節水弁を使用していない場合に比べて節水弁の出口側流量が高くならない、すなわち、節水弁を使用しない場合に比較して流量を減少させるという意味に解する余地も否定できない。
本件構成要件(二)に係る本件請求の範囲の記載の「減少させるようにした」対象は「節水弁の出口側流量」であり、「減少させるようにした」との文言に「節水弁を使用しない場合に比較して」等の限定がないことから、前者の解釈が文言解釈としては素直であるものの、本件構成要件(二)に係る本件請求の範囲の記載のみから、後者の解釈が採れないと断定することはできない。
3 そこで、本件請求の範囲の他の記載についてみるに、本件請求の範囲のうち本件構成要件(三)に係る記載に関しても、被告らは、第二の流体出口開口(8B)は、球状弁体(3)が当接する円錐状弁座面部分(6C)よりも下流側に位置していなければならない(そして、そのような構成をとる本件考案の実施品は、本件構成要件(二)のとおり、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量がほぼ反比例的に減少するが、そのような構成をとらないイ号物件は、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量が比例的に増加する)と主張するのに対し、原告は、第二の流体出口開口(8B)と円錐状弁座面部分(6C)の位置関係等については本件請求の範囲において限定はされていないと主張する。
そして、本件請求の範囲には、「複数の第2の流体出口開口(8B)」が「円錐状弁座面部分(6C)」に設けられてはならないことは明示的には記載されていない。しかしながら、円錐状弁座面部分(6C)は、「第1の内径部分(6A)と第2の内径部分(6B)との間を結ぶ」とされているところ、「第1の内径部分(6A)」は「流体入口開口(7)に連通する」とされ、「第2の内径部分(6B)」は「第1および第2の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の」とされていることから、ケーシング(2)は、大きく分けて上から順に「流体入口開口(7)に連通する内径r1の第1の内径部分(6A)」、「第1の内径部分(6A)と第2の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)」、「第1および第2の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の第二の内径部分(6B)」の三つの部分に分けることができるところ、「第2流体出口開口(8B)」は、内径r2(r2<r1)の第2の内径部分(6B)」に「連通する」とされているから、右三つの部分のうち最後の「第2の内径部分(6C)」に位置すると考えるのが自然である。このように考えると、「第2の流体出口開口(8B)」が「軸方向他端側における周壁(10)に設け」られるとされていることとも合致する(「第2の流体出口開口(8B)」が「円錐状弁座面部分(6C)」の周壁に設けられるとすると、必ずしも「軸方向他端側」とはいえないと考えられる)。
しかし、一方で、「第2の流体開口(8B)」の位置が明示的に限定されていないことからすれば、本件請求の範囲の記載のみから、本件構成要件(三)が右のとおり第二出口開口(8B)の位置を限定していると断定するにはなお疑問があり、また、仮に、本件構成要件(三)を右のとおり解したとしても、本件請求の範囲の記載からは、それと本件構成要件(二)との関係も明らかではなく、前記の本件構成要件(二)の意義も一義的に明らかにはならない。
そこで次に、本件明細書の記載を参酌しながら、本件構成要件(二)、(三)の意義を検討することとする。なお、考案の技術的範囲の認定は、特段の事情のない限り、願書に添付された実用新案請求の範囲に基づいてされるべきであり、実用新案請求の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の考案の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の考案の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないと解するのが相当である(最高裁平成三年三月八日判決・民集四五巻三号一二三頁参照)が、本件考案については、既に述べたところから右の特段の事情があるというべきである。
二 本件明細書の記載
前記第二、二4のとおり、本件明細書の「作用」の項には、開閉栓を徐々に開いていくと、流量W1の段階において、球状弁体は、スプリング部材の付勢力に抗して軸方向に移動し、放出w1の水を放出し、さらに、開閉栓を開き、流量が最大流W2に近づくと、その流圧によって球状弁体は、円錐弁座面に係合し、放水を遮断することが、「考案の効果」の項には、開閉栓の開き操作によって、不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて、ほぼ反比例的に放水流量を制限し、開放最大値近傍において放出量を0にすることもできることが、それぞれ記載されている。
また、本件明細書には、次の各記載がされている(甲二)。
1 産業上の利用分野
「この考案は、水道栓のような流量調節開閉栓を含む流路中に使用する節水弁であって、特に、流量調節開閉栓の開方向操作により、流路中の流路(「量」の誤記と認める)が高くなるに従って、その流量流圧に応答して放出流量を制御し、節水するようにした流量調節開閉栓用節水弁に関するものである。」
2 考案が解決しようとする課題
「……。しかしながら、この従来の節水弁は、ケーシング内に流入する流体圧によって、リング状弁体(33)を軸方向に沿って浮上させて、流体出口開口(38B)の一部を閉じるように構成したもので、リング状弁体の制御が極めて不安的であり確実性に欠けるという問題点を有していた。そこで、この考案は、流量調節開閉栓の開方向操作による流量の増加に応じて、ほぼ反比例的に放出流量を制限し、開放最大値近傍において放出流量を0にすることもできるように構成した、安定性並びに確実性の高い流量調節開閉栓用節水弁を提供することにある。」
3 課題を解決するための手段
「この考案は、上記する目的を達成するにあたって、具体的には、流量調節開閉栓の出口側において出口側流路と補助流路との接続部に取り付けて用いる節水弁であって、前記流量調節開閉栓の開方向操作により、前記出口側流路における流量が高くなるに従って、前記節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁において、……とからなる流量調節開閉栓用節水弁を構成するものである。」
4 実施例の説明
「……。以上の構成になる節水弁(1)は、流量調節開閉栓(21)が閉じられている場合には、第2図Aに示すように球状弁体(3)は、コイルスプリング(11)に付勢されて、ストッパ部材(5)に当接する位置をとる。次いで、流量調節開閉栓を徐々に開いていき、流量W1になると、その流体圧によって前記球状弁体(3)は、前記コイルスプリングに抗して軸方向に移動する。この場合、節水弁(1)の入口開口側にもたらされた流体の量W1にほぼ等しいw1の水が矢印ラインに沿って出口開口(8A)、(8B)から放出される。流量W1が増量すると、その流体圧によって節水弁(1)の出口側開口が徐々に絞られ、放出水の節水が図られる。しかしながら、この場合において、出口開口(8B)が筒体周壁に設けられているので、放水を散乱させることができ、あたかも多量の放水がなされている状態を得る。さらに、流量調節開閉栓を開いていき、流量が最大流量W2に近づくと、その流体圧によって前記球状弁体(3)は、円錐状弁座面部分(6C)に当接し、出口開口側(8A)、(8B)を封止してしまい、放水を遮断する。流量調節開閉栓の開き度合いが、第2図Bから第2図Cに至る間において、無駄な放水は効果的に節水される。」
なお、右実施例の説明に対応する第2図A、B、Cが記載されているが、同各図においては、円錐状弁座面部分(6C)の下に位置する周壁部分に第二の流体出口開口(8B)が描かれ、同図Cでは、球状弁体(3)が円錐状弁座面部分(6C)に接し、第一及び第二の両方の流体出口開口(8A)、(8B)を封鎖している状態が描かれている。なお、原告は、本件明細書の第2図Cでは、節水弁の第二の流体出口開口(8B)は、一部円錐状弁座面部分(6C)にまたがって存すると主張するが、同図と第2図A、Bとの対比や、同各図に対応する「実施例の説明」の記載を総合すると、第2図Cをそのように見ることはできない。
三 本件考案の技術的意義と本件構成要件(二)、(三)の意義
1 本件請求の範囲の記載(特に本件構成要件(二)、(三)に係る部分)及び前記二の本件明細書の各記載を総合すると、本件考案の技術的意義は、球状弁体(3)と円錐状弁座面部分(6C)との間の隙間によって、通過流量が調節され、節水弁(1)に入ってくる流量が多くなるほどコイルスプリング部材(11)の圧縮量が大きくなって、球状弁体(3)と円錐状弁座面部分(6C)の隙間が小さくなり、これにより、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させ、開閉栓の出口側流量が最大流量に近づくと、その流体圧によって球状弁体(3)が円錐状弁座面部分(6C)に接して、節水弁の第一及び第二の流体出口開口(8A)、(8B)を封鎖し、放水を遮断する点にあると認められる。
本件考案の技術的意義をこのように解することは、本件構成要件(二)について、前記一2の素直な文言解釈どおり、開閉栓の出口側流量が「高くなるに従って」、節水弁の「出口側流量を減少させる」と解することに合致する。また、前記一3のとおり、本件構成要件(三)については、第二流体出口開口が「第一及び第二の流体出口開口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の第二の内径部分(6B)」の周壁に位置する構成とされていると考えるのが自然であるところ、この構成は前記の本件考案の技術的意義に合致する。すなわち、そのような構成であることにより、本件構成要件(二)のとおり、閉栓栓の出口側流量が高くなるに従って、球状弁体(3)と円錐状弁座面部分(6C)の隙間が小さくなって、節水弁の出口側流量を減少させることになり、また、開閉栓の出口側流量が最大流量に近づくと、その流体圧によって球状弁体(3)が円錐状弁座部分(6C)に接して、節水弁の第一及び第二の流体出口開口(8A)、(8B)をいずれも封鎖し、放水を遮断することになると考えられる。
2 なお、本件明細書の「産業上の利用分野」の項においては、「流量流圧に応答して放出量を制御し」とあり、また、「考案が解決しようとする課題」の項にも「流量の増加に応じて、ほぼ反比例的に放出流量を制限し」との記載が存し、これらの記載は、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、放出流量を制限する(したがって必ずしも節水弁の出口側流量をそれ以前より減少させるものではない)という意味にも解される。
しかし、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って節水弁の放出流量を制限すること自体は、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って節水弁の出口側流量を減少させるようにすることと相容れないものではない上(節水弁の出口側流量を減少させるためには、当然、節水弁の放出流量を制限することが必要である)、「考案が解決しようとする課題」の項に続く「課題を解決するための手段」の項では、本件構成要件(二)に係る本件請求の範囲の記載と同様に、「出口側流路の流量が高くなるに従って、節水弁の出口流量を減少させる」と明記されているほか、「作用」の項において前記の本件考案の技術的意義に合致する記載がなされ、また、「実施例の説明」の項でも同技術的意義に沿った実施例の説明がなされていることなどからすれば、前記の「産業上の利用分野」及び「考案が解決しようとする課題」の各記載をもって、本件構成要件(二)に係る本件請求の範囲の素直な文言解釈を避け、「節水弁の出口側流量を減少させる」との記載が、実際の「節水弁の出口側流量」ではなく、本件考案に係る節水弁を使用しない場合に比較して出口側流量を減少させるという意味であると解することはできないというべきである。
原告は、本件明細書の「考案が解決しようとする課題」及び「考案の効果」の項の「開放最大値近傍において放出量を0にすることもでき」とは、「もできる」という表現から読めるように余事的副次的課題として位置付けられているにすぎないなどと主張するが、本件明細書の「作用」の項には、「上記するように構成されるこの考案になる節水弁は、次のように作用する。」とした上で、前記第二、二4(一)のとおり、「流量が最大流W2に近づくと、その流圧によって前記球状弁体は、円錐状弁座面に係合し、放水を遮断する。」と明記されていることや、後記3のとおり、本件明細書には、球状弁体が円錐状弁座面部分に接した場合においても一定の流量を保つことのできることが明記されていないばかりか、そのような作用をうかがわせる記載もないことからすれば、原告の右主張は採用できない。
3 また、被告らの実験によれば、円錐状弁座面部分(6C)に第二流体出口開口(8B)を設けたイ号物件は、水圧にもよるが、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量が(本来の流量からは制限されるものの)増加し、開閉栓の出口側流量がある流量に達した後は、節水弁の出口側流量が一定に保たれる作用が見られるのに対し(別紙四の資料B、Cのイ号物件C、E)、円推状弁座部分(6C)より下流に第二流体開口(8B)を設けた節水弁は、水圧にもよるが、ある流量に達した後は、開閉栓の出口側流量が増加するに従って、節水弁の出口側流量が減少し(別紙四の資料Bの考案実施品d、同資料Cの考案実施品c、d)、さらに開閉栓の出口側流量が高くなると節水弁の出口側流量が0に近い状態になる(同資料Bの考案実施品d-節水弁の出口側流量が0になっていないのは、寸法精度上の誤差等により微小の隙間から水が漏れたためと考えられる)ことが認められる(弁論の全趣旨)。この違いは、球状弁体(3)が、円錐状弁座面部分(6C)に接した場合に、第一及び第二流体出口開口(8A)、(8B)がともに閉鎖されるか(第二流体開口(8B)が円錐状弁座面部分(6C)より下流にある場合)、第二流体出口開口(8B)が(部分的にであれ)閉鎖されないか(第二流体出口開口が円錐状弁座面部分(6C)にある場合)の違い、すなわち、イ号物件に右のような作用効果が見られるのは、ケーシングの周壁に設けられた第二流体出口開口(8B)が円錐状弁座部分(6C)にあり、流量が最大値近傍になっても球状弁体(3)によってこれが封鎖されないためであると考えられる。
しかるに、本件明細書には、イ号物件に見られるような節水弁の出口側流量を一定に保つような作用効果や、第二流体出口開口(8B)の右のような作用をうかがわせる記載は全くない。第二流体出口開口(8B)の積極的な作用としては、「実施例の説明」の項において、節水弁の出口側開口が絞られた状態でも、「出口開口(8B)が筒体周壁に設けられているので、放水を散乱させることができ、あたかも多量の放水がなされている状態を得る。」と記載されているのみであり、しかも、それに続いて、第二の流体出口開口(8B)が封止されることが記載されている。このことも、本件考案の技術的意義や、本件構成要件(二)、(三)を前記のとおり解することに合致するといえる。
4 なお、原告は、円錐状弁座面部分(6C)に第二の流体出口開口(8B)が設けられたとしても、球状弁体の径が大きければ節水弁の放出流量は0になり、また第二流体出口開口(8B)の位置が下方にずれれば節水弁の放出流量は0またはそれに近くなるとして、これらは本件考案の技術的範囲内の設計態様によるものであると主張するところ、確かに、本件考案においては球状弁体の外径Rは、r1>R>r2という限定しかないから、円錐状弁座面部分(6C)に第二の流体出口開口(8B)が設けられたとしても、球状弁体Rの大きさと第二の流体出口開口(8B)の位置によっては、球状弁体が円錐状弁座面部分(6C)に接した場合に第二の流体出口開口(8B)が封鎖されることがあることは考えられる。しかし、逆に、第二の流体出口開口(8B)が円錐状弁座面部分(6C)より下流の内径r2の第二の内径部分(6B)に設けられた場合には、球状弁体の外径Rは第二の内径部分(6B)の内径r2より大きいことから、球状弁体が円錐状弁座面部分(6C)に接した場合には第二の流体出口開口(8B)は封鎖されることになるところ、本件考案は、前記の技術的意義を満足するために、このような構成(本件構成要件(三))を採用したと解されるから、原告の右主張は採用できない。
四 後願にみる本件考案の技術的意義についての原告の認識
原告は、本件考案が公開された後である平成三年六月二〇日に別件考案につき実用新案の登録出願(出願番号・実願平三-五五六〇一)をしているところ、その願書添付の明細書において、本件考案の公開番号である実開平三-四一二八三号を引用し、次のとおり記載している(乙六)。
1 従来の技術
「さらに、別の例になる従来の節水弁は、同一出願人によって開発された実開平3-41283号公報に開示の流量調節開閉栓用節水弁が知られている。この実開平3-41283号公報に開示の流量調節開閉栓用節水弁は、水道栓が閉じられている時には、球状弁体(3)は、弁体付勢手段(4)によってストッパ部材(5)に当接していて流体流路を遮断しており、水道栓が徐々に開かれ、入口側の流量がW1である時には、球状弁体(3)は、弁体付勢手段(4)の付勢力に抗して軸方向に移動し、ストッパ部材(5)がら離れ、円錐状弁座面(6C)との間の流路を介して流量w1の流体を流体出口開口(8A)及び(8B)から放出し、入口側の流量がW2に増量すると、その流体圧によって前記球状弁体(3)は、弁体付勢手段(4)の付勢力に抗して円錐状弁座面(6C)に当接して流体出口開口(8A)及び(8B)を閉じてしまい、流体の放出を遮断してしまうものである。即ち、この実開平3-41283号公報に開示のものは、入口側の流量がW2に達した段階で、流体の流出を遮断するように構成されているものであり、その点において、一面における不便さを有している。」
2 考案が解決しようとする課題
「そこで、この考案は、水道栓のような流量調節開閉栓を含む出口側流路中に取り付けて用いる節水弁に関して、水道栓の開方向操作による流量の増加による高流圧に応答して、ほぼ反比例的に放出水量を制限するとともに、水道栓の最大開方向操作時においても流量感のある適量の水を放出し得るように構成した、安定性並びに確実性の高い流量調節節水弁を提供しようとするものである。」
3 作用
「……さらに、水道栓を開き、入口側流量が最大流量W2に近づくと、球状弁体は、スプリング部材の付勢力に抗して円錐弁座面に係合するまで軸方向に移動し、円錐弁座面に対する球状弁体の係合状態時に流体出口開口を閉じる。この考案では、弁本体の周壁であって、円錐状弁座面に交差して放射方向にのびる複数の流体放射流出開口を設けてある。この流体放射流出開口は、上記円錐弁座面に対する球状弁体の係合状態時に、球状弁体により閉じられることのない位置に設定されており、上記円錐弁座面に対する球状弁体の係合状態時に、前記流体放射流出開口を介して適量w2の流体を流出するようになっている。」
右各記載を総合すると、原告は、本件考案においては、開閉栓の出口側流量が最大値近傍になった場合、節水弁の出口側流量が0となり、流量感のある適量の水を放出できない(すなわち、イ号物件におけるように一定の流量を保つことはできない)との問題意識の下に、別件考案を出願したものであることが明らかであり、原告は、本件考案の技術的範囲を前記三1に認定したとおり認識していたものと認められる。
五 以上のとおり、本件明細書の記載、後願に見られる原告の本件考案についての認識のいずれからみても、本件考案の技術的意義は、前記三1のとおりであると認められ、したがって、既に述べたように、本件構成要件(二)は、(ある水量に達した後は)開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした構成であり、本件構成要件(三)は、第二の流体出口開口(8B)を、円錐状弁座面部分(6C)ではなく、第二の内径部分(6B)に設ける構成であると解すべきである。
しかるに、イ号物件は、流量調節開閉栓の出口側流量における流量が高くなるに従って、(節水弁をつけない場合に比較して制限されてはいるものの)節水弁の出口側流量は増加するものであり、また、第二の流体出口開口(8B)は、円錐状弁座面部分(6C)に設けられているから、本件構成要件(二)、(三)のいずれも充足するものとは認められない。
六 原告主張の本件考案の実施品
原告は、別紙二の各節水弁(前記第二、五1(五))は、いずれも本件考案の実施品であり、これらの開栓角度に対する放出水量は別紙三の資料Bのとおりであるから、イ号物件は、本件考案の実施品と作用効果において差がないと主張する。
そして、原告が本件考案の実施品であると主張する六つのタイプの節水弁のうち、AないしEタイプの各節水弁は、別紙三の資料Bのとおり、開栓角度が九〇度より後は、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量は制限されるものの、次第に増加し、ある流量に達した後はほぼ節水弁の出口側流量が一定に保たれるものであることが認められ(弁論の全趣旨)、その作用効果は、イ号物件と同様である。
しかし、本件構成要件(二)は、開閉栓の出口側流量が高くなるに従って、節水弁の出口側流量を減少させるようにした構成であると解すべきことは既に述べたとおりであって、右の作用効果からすれば、そもそもAないしEタイプの各節水弁は、本件構成要件(二)を充足しているとはいえない。また、AないしEタイプの各節水弁は、いずれも円錐状弁座部分(6C)に第二流体出口開口(8B)が設けられ、球状弁体(3)が円錐状弁座部分(6C)に接した場合においても第二流体出口開口(8B)が封鎖されない構成のものである(別紙二、前記第二、五3(五)(1))から、本件構成要件(三)を充足しているものともいえない。したがって、AないしEタイプの各節水弁は、いずれも本件考案の実施品であるとは認められないから、原告の前記主張は採用できない。
七 以上のとおり、イ号物件は、本件構成要件(二)、(三)を充足すると認められず、本件考案の技術的範囲に属するとは認められない。
なお、原告は、被告らは、本件訴訟前の原告に対する回答書においては、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを当然の前提としていたと主張するところ、確かに、被告会社の製造・販売に係る節水弁が本件考案の技術的範囲に属する旨の原告の平成九年五月九日付けの被告会社宛の通知書(甲三の1)に対し、被告会社の代理人(本件訴訟代理人)は、同月二三日付けの書面(甲四)により、同節水弁が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて触れず、被告会社が先使用による実施権及び職務発明による実施権を有する旨の回答をしたことが認められる。また、被告らは、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するとした場合の仮定的主張(職務発明による実施権または権利濫用)ではあるものの、イ号物件は原告と被告木村が共同開発したものであるが、原告は、被告木村との合意に反して単独で実用新案登録を受けたとして、前記第二、四3(一)のとおり事実経過を主張をするところ、被告会社は、平成三年一一月二七日、本件考案の権利者を原告と被告木村の共同名義に変更することを催促する内容の書面(乙五)を原告に出していることが認められる。そして、原告は、被告ら主張の右事実経過を否認しており、その真偽は明らかではないものの、仮に、被告ら主張の事実経過のとおりであれば、本件考案は、原告と被告木村が共同開発したイ号物件についての実用新案登録であり、したがって、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することとなるのではないかとの疑問も考えられないではない。
しかしながら、仮に、原告が本件考案の登録出願をした際、既にイ号物件が考案され原告がその考案を登録しようとしたものであっても、本件請求の範囲その他本件明細書の記載から認定できる本件考案の技術的範囲は既に述べたとおりであって、しかも原告もそれを認識していたと認められる(前記四)から、前記の事実経過によって、前記認定が左右されるものではない(仮に、原告が、イ号物件の考案を登録しようとして本件考案の出願をなしたものであったとしても、本件明細書の記載からすれば、考案の技術的範囲を限定して出願してしまったものと考えざるを得ない)。
第四 結論
以上の次第であるから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日・平成一〇年六月二九日)
(裁判長裁判官 井垣敏生 裁判官 松本利幸 裁判官 中尾彰)
イ号物件説明書
一 別紙イ号図面
第1図は、イ号物件に係る流量調節開閉栓用節水弁について、流路への取付状態を合わせて示すものであって、被取付部を仮想線で示す縦断面図である。第2図は、イ号物件の外観斜視図である。第3図は、流量調節開閉栓(水道栓)の出口側流路への取付態様例を示す側面図である。第4図は、イ号物件に係る流量調節開閉栓用節水弁の使用状態の縦断面図であり、各部の寸法を合わせて記載している。
二 イ号物件の構成
1 流量調節開閉栓(21)の出口側、たとえば、出口側流路(22)と補助流路(23)との接続部に取付けて用いる節水弁(1)であって、流量調節開閉栓(21)の開方向操作によって流れる水の量を減少させた状態で放水する流量調節開閉栓用節水弁である。
2 節水弁(1)は、ケーシング(2)を備える。ケーシングは、軸方向一端側に設けた流体入口開口(7)と、軸方向他端側であって、流体入口開口(7)に対向する端壁(9)に設けた第一の流体出口開口(8A)と、ケーシングの周壁(10)に設けた四つの第二の流体出口開口(8B)と、流体入口開口(7)に連通する内径r1の第一の内径部分(6A)と、第一流体出口開口(8A)に連通する内径r2(r2<r1)の第二の内径部分(6B)と、第二流体出口開口(8B)に連通し、第一の内径部分(6A)と第二の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)とを備える。
3 節水弁(1)は、ケーシング(2)における第1の内径部分(6A)及び円錐状弁座面部分(6C)において軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体(3)を備える。
4 節水弁(1)は、ケーシング(2)における流体入口開口(7)側に取付けられていて、球状弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)を備える。
5 節水弁(1)は、球状弁体(3)とケーシング(2)における端壁(9)の内面との間に張装され、球状弁体(3)をストッパ部材(5)側に付勢するコイルスプリング部材(11)を備える。
6 節水弁(1)の各部の寸法は、第4図に記載のとおりである。節水弁(1)には、A、B、C、DおよびEの五タイプがあり、各タイプの節水弁は寸法X、Y及びZが異なっている。Xは、ケーシング上端のフランジ部の底面から第一の内径部分(6A)の下縁までの高さ寸法であり、Yは、ケーシングの底面から第二の流体出口開口(8B)の上縁までの高さ寸法であり、Zは第二の流体出口開口(8B)の上縁が位置する円錐状弁座面部分(6C)の内径寸法である。各タイプの寸法X、Y及びZは、第4図中の表に記載のとおりである。
イ号図面
<省略>
(19)日本国特許庁(JP) (12)実用新案登録公報(Y2) (11)実用新案登録番号
第2527100号
(45)発行日 平成9年(1997)2月26日 (24)登録日 平成8年(1996)11月18日
(51)Int.Cl.6F 16K 17/34 E03C 1/042 識別記号 庁内整理番号 FI F16K 17/34 E03C 1/042 D B 技術表示箇所
請求項の数1
(21)出願番号 実願平1-102685
(22)出原日 平成1年(1989)8月31日
(65)公開番号 実開平3-41283
(43)公開日 平成3年(1991)4月19日
審判番号 平4-18054
(73)実用新案権者 999999999
平田政弘
京都市東山区泉涌寺五葉ノ辻町13番地
(72)考案者 平田政弘
京都府京都市東山区泉涌寺五葉ノ辻町13番地
(74)代理人 弁理士 村田紀子
合議体
審判長 天野正景
審判官 高橋美実
審判官 新海栄
最終頁に続く
(54)【考案の名称】 流量調節開閉栓用節水弁
(57)【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】流量調節開閉栓(21)の出口側において出口側流路(22)と補助流路(23)との接続部取り付けて用いる節水弁(1)であって、前記流量調節開閉栓(21)の開方向操作により、前記出口側流路(22)における流量が高くなるに従って、前記節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁におい、
軸方向一端側に設けた流体入口開口(7)と、軸方向他端側であって、前記流体入口開口(7)に対向する端壁(9)に設けた第1の流体出口閉口(8A)と、軸方向他端側における周壁(10)に設けた複数の第2の流体出口開口(8B)と、前記流体入口開口(7)に連通する内径口と第1の内径部分(6A)と、前記第1および第2の流体出口閉口(8A)、(8B)に連通する内径r2(r2<r1)の第2の内径部分(6B)と、前記第1の内径部分(6A)と第2の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐状弁座面部分(6C)とを備えたケーシング(2)と
前記ケーシング(2)における第1の内径部分(6A)において軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体(3)と、
前記ケーシング(2)における流体入口開口(7)側に取り付けられていて、前記球状体弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)と、
前記球状弁体(3)とケーシング(2)における端壁(9)の内面との間に張装され、前記球状弁体(3)を前記ストッバ部材(5)側に付勢するコイルスブリング部材(11)とからなることを特徴とする流量調節開閉栓用節水弁.
【考案の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
この考案は、水道栓のような流量期節開閉栓を含む流路中に使用する節水弁であって、特に、流量調節開閉栓の開方向操作により、流路中の流路が高くなるに従って、その流量流圧に応答して放出流量を制御し、節水するようにした流量調節開閉栓用節水弁に関するものである.
【従来の技術】
周知のように、例えば水道システムは、その各端末流路に、流量調節開閉栓を取り付けておき、該流量調節開閉栓の開方向操作によって、その開き度合いに応じた水を所謂蛇口から放出するように構成してある.このような水道システムの利用者は、僅かな水を利用するような場合にあっても、往々にして、流量調節開閉栓を大きく開き、多量の水を無駄に放出している.従来、このような水道システムの利用に関して、無駄な放水を防止する目的において、流量調節開閉栓の大きな開放による流量の増加にともなって、その流圧を利用して放出水の量を制限しようとする節水弁が提供されている.従来の節水弁は、第4図に示すような構成のものであり、これを例えば、第3図に示すように流量調節開閉栓(21)の出口側流路(22)に介在配置して用いる.前記節水弁(31)は、ケーシング(32)と、前記ケーシング(32)内において軸方向に移動可能に収納してあるリング状弁体(33)と、前記リング状弁体(33)を流圧に応じて軸方向に移動させる手段(34)と、前記リング状弁体(33)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(35)とによって構成される.前記ケーシング(32)は、内径rの内径部分(36)をもつ有底筒状からなり、軸方向一端側に流体入口開口(37)を、軸方向他端側に流体出口開口(38)を備えている.この例において、前記流体出口開口(38)は、筒体底壁(39)を軸方向に貫通する軸方向出口開口(38A)と、筒体周壁(40)を軸方向に交差して貫通する放射方向出口開口(38B)とからなっている.一方、前記リング状弁体(33)は、前記ケーシング(32)における内径部分(36)の内径rより小さい外径Rを有し、前記ケーシング(32)における軸方向出口開口(38A)の径より大きい内径を有するリング体からなっている.さらに、従来の節水弁(31)において、リング状弁体(33)を流圧に応じて軸方向に移動させる手段(34)は、ケーシング底壁(39)における内面側に設けた円錐傾斜面(39a)によって形成される.
【考案が解決しようとする課題】
この従来の節水弁(31)は、流量調節開閉栓の出口側流路における流量(W1→W2)に応じて第4図A及びBに示すように作動する.前記流量調節開閉栓(21)の出口側流路(22)における流路が適量W1であるときには、ケーシング(32)の流体入口開口(37)にもたらされた流体は、リング状弁体(33)の内径部分を通過して流体出口開口(38A)から、及び流体出口開口(38B)から放出流量w1(w1≒W1)として放出される.一方流量調節開閉栓(21)の出口側流路(22)における流量が多量W2に至ると、ケーシング(32)の流体入口開口(37)にもたらされた流体は、リング状弁体(37)の内径部分を通過した段階で円錐傾斜面部分(39a)にガイドされて、前記リング状弁体(33)に浮力を付与し、前記リング状弁体(33)を軸方向に浮上移動させる.それによって、前記リング状弁体(33)は、前記ケーシング周壁(40)の放射方向出口開口(38B)を部分的に閉じ、放出流量w2(w2<W2)として節水する.しかしながら、この従来の節水弁は、ケーシング内に流入する流体圧によって、リング状弁体(33)を軸方向に沿って浮上させて、流体出口開口(38B)の一部を閉じるように構成したもので、リング状弁体の制御が極めて不安定であり確実性に欠けるという問題点を有していた.
そこで、この考案は、流量調節開閉栓の開方向操作による流量の増加に応じて、ほぼ反比例的に放出流量を制限し、開放最大値近傍において放出流量を0にすることもできるように構成した、安定性並びに確実性の高い流量調節開閉栓用節水弁を提供することにある.
【課題を解決するための手段】
この考案は、上記する目的を達成するにあたって、具体的には、流量調節開閉栓の出口側において出口側流路と補助流路との接続部に取り付けて用いる節水弁であって、前記流量調節開閉栓の開方向操作により、前記出口側流路における流量が高くなるに従って、前記節水弁の出口側流量を減少させるようにした流量調節開閉栓用節水弁において、
軸方向一端側に設けた流体入口開口と、軸方向他端側であって、前記流体入口開口に対向する端壁に設けた第1の流体出口開口と、軸方向他端側における周壁に設けた複数の第2の流休出口開口と、前記流体入口開口に連通する内径r1と第1の内径部分と、前記第1および第2の流体出口開口に連通する内径r2(r2<r1)の第2の内径部分と、前記第1の内径部分と第2の内径部分との間を結ぶ円錐状弁座面部分とを備えたケーシングと
前記ケーシングにおける第1の内径部分にいおて軸方向に移動可能に収納してある外径R(r1>R>r2)の球状弁体と、
前記ケーシングにおける流体入口開口側に取り付けられていて、前記球状弁体の軸方向の移動を制限するストッパ部材と、
前記球状弁体とケーシングにおける端壁の内面との間に張装され、前記球状弁体を前記ストッパ部材側に付勢するコイルスブリング部材とからなる流量調節開閉栓用節水弁を構成するものである.
【作用】
上記するように構成されるこの考案になる流量調節開閉栓用節水弁は、次のように作用する.まず、流量調節開閉栓が閉じられていて、出口側流路中の流量が0である場合に、ケーシング内の球状弁体は、スプリング部材により上限位置に付勢されていて、流体入口開口を閉じた状態にある.流量調節開閉栓を徐々に開いていくと、流量W1の段階において、球状弁体は、スプリング部材の付勢力に抗して軸方向に移動し、放出W1の水を放出する.さらに、流量調節開閉栓を開き、流量が最大流W2に近づくと、その流圧によって、前記球状弁体は、円錐弁座面に係合し、放水を遮断する.
【実施例の説明】
以下、この考案になる流量調節開閉栓用節水弁について、図面に示す具体的な実施例にもとづいて詳細に説明する.
この考案になる節水弁(1)は、基本的構成において、ケーシング(2)と、前記ケーシング(2)内において軸方向に移動可能に収納してある球状弁体(3)と、前記球状弁体(3)を流体圧に反抗する方向に付勢支持する手段(4)と、前記球状弁体(3)の軸方向の移動を制限するストッパ部材(5)とからなっている.前記ケーシング(2)は、内径r1の第1の内径部分(6A)と、内径r2(r2<r1)の第2の内径部分(6B)と、前記第1の内径部分(6A)と第2の内径部分(6B)との間を結ぶ円錐弁座面部分(6C)とをもつ有底筒体からなり、軸方向一端側に流体入口開口(7)を、軸方向他端側に流体出口開口(8)を備えたものからなっている.前記ケーシング(2)における流体出口開口(8)は、筒体底壁(9)を軸方向に貫通する軸方向出口開口(8A)と、筒体周壁(10)を軸方向に交差して貫通する例えば4つの放射方向出口開口(8B)とからなっている.一方、前記球状弁体(3)は、前記ケーシング(2)における第1の内径部分(6A)の内径r1より小さく、前記第2の内径部分(6B)より大きい外径Rの完全球体からなっている.前記球状弁体(3)を流体圧に反抗する方向に付勢支持する手段としては、当該球状弁体過去産とケーシング底壁(9)の内面との間に張装してあるコイルスブリング(11)によって構成される.前記コイルスブリング(11)は、通常、前記球状弁体(3)をストッパ部材(5)に当接する方向に向けて付勢されているものであり、外力である流体圧の大きさに比例して変位する.図に示す具体例において、前記ストッパ部材(5)は、第1図及び第3図に示すようにして、流量調節開閉栓(21)の出口側流路(22)に取り付けるためのフランジ部(12)を有し、前記ケーシング(2)の流体入口開口(6)側に、例えばパッキン(13)を介在して、螺合固着してある.
この考案になる節水弁(1)は、第1図において仮想線で示すように、流量調節開閉栓の出口側流路(22)と補助流路(23)との間にフランジ部分(12)を挟み込み、袋ナット(24)の締め付けによって、極めて簡単に着脱できるようになっている。以上の構成になる節水弁(1)は、流量調節開閉栓(21)が閉じられている場合には、第2図Aに示すように球状弁体(3)は、コイルスプリング(11)に付勢されて、ストッパ部材(5)に当接する位置をとる.次いで、流量調節開閉栓を徐々に開いていき、流量W1になると、その流体圧によって前記球状弁体(3)は、前記コイルスプリングに抗して軸方向に移動する.この場合、節水弁(1)の入口開口側にもたらされた流体の量W1にほぼ等しいW1の水が矢印ラインに沿って出口開口(8A)、(8B)から放出される.流量W1が増量すると、その流体圧によって節水弁(1)の出口側開口が徐々に絞られ、放出水の節水が図られる.しかしながら、この場合において、出口開口(8B)が筒体周壁に設けられているので、放水を散乱させることができ、あたかも多量の放水がなされている状態を得る.さらに、流量調節開閉栓を開いていき、流量が最大流量W1に近づくと、その流体圧によって前記球状弁体(3)は、円錐状弁座面部分(6C)に当接し、出口開口側(8A)、(8B)を封止してしまい、放水を遮断する.流量調節開閉栓の開き度合いが、第2図Bから第2図Cに至る間において、無駄な放水は効果的に節水される.
【考案の効果】
以上の構成になるこの考案の流量調節開閉栓用節水弁は、流量調節開閉栓の出口側流路に対して、極めて簡単に取り付け及び取り外すことができるコンパクトな節水弁であって、流量調節開閉栓の開き操作によって、不必要な流水が供給されるような場合に、その流体圧に応じて、ほぼ反比例的に放水流量を制限し、開放最大値近傍において放出量を0にすることもでき、安定性並びに確実性の面において極めて実効性の高いものであるといえる.
【図面の簡単な脱明】
第1図は、この考案になる流量調節開閉栓用節水弁の具体例を示すものであって、流路への取り付け状態を併せて示す半部を断面にした側面図、
第2図A、B及びCは、当該節水弁の作動態様を示す断面図、
第3図は、流量調節開閉栓の出口側流路への取り付け態様例を示す側面図、
第4図A及びBは、従来の節水弁の作動態様を示す断面図である.
(1)……節水弁
(2)……ケーシング
(3)……球状弁体
(4)……弁体付勢手段
(5)……ストッパ部材
(6A)……第1の内径部分
(6B)……第2の内径部分
(6C)……円錐状弁座面部分
(7)……流体入口開口
(8)……流休出口開口
(11)……コイルスプリング
【第1図】
<省略>
【第2図】
<省略>
【第3図】
<省略>
【第4図A】
<省略>
【第4図B】
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(56)参考文献 実開 昭51-141821(JP、U)
実開 昭49-46309(JP、U)
実開 昭62-44305(JP、U)
実開 昭61-150576(JP、U)
実開 昭61-41971(JP、U)
実開 昭62-149680(JP、U)
実開 平1-85580(JP、U)
別紙二
<省略>
別紙三
資料A
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資料B
開栓角度に対する放出流量
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測定日時 平成10年04月15日
測定場所 エル・クレバー株式会社内
測定機器 愛知時計精機株式会社製
型式 NF20-PTN
使用圧力 0~10kgf/cm2(20℃)
計測範囲 3.0~60l/min
別紙四
資料A
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資料B
実験1:水圧3.4kgf/cm2の時
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測定日 平成10年6月8日
測定場所 東京都港区芝5丁目30-1
ゴミ置き場ホース水栓
使用流量計 愛知時計電機株式会社製
型式NF20-PTN
資料C
実験2:水圧2.4kgf/cm2の時
<省略>
測定日 平成10年6月8日
測定場所 東京都港区芝5丁目30-1
(株)アイテックバスルーム内混合水栓
使用流量計 愛知時計電機株式会社製
型式NF20-PTN
実用新案登録公報
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